これが俺の #シンVTuber楽曲大賞 だ
2019年から開催され、ここ最近はVTuber界隈の年末の風物詩となりつつある投票企画、「VTuber楽曲大賞」。しかし今年は何かと物議を呼ぶ結果となった。その中身について俺は多くは語らないが、本来のイベントからわずか1週間後に「二次会」が開かれたことは、その「物議があった」ことを示すのに充分なエビデンスだろう。
さて、これには俺も投票していたわけだが、結果に関しては文句はない。妥当だと思う。ただある意味、無力感というか、自分の推しが思った結果を残せなかったやるせなさを感じたのも事実だ。しかし主催者がこんな言葉を残しているではないか、「 あなたの 楽曲大賞を決めるのが一番の価値だ」と。だから俺は言ってやる。これが俺の誰にも譲れない、2021年VTuber楽曲大賞だと。
なお、本来のVTuber楽曲大賞は、楽曲部門TOP100およびPV部門TOP50までが 公開されている 。この記事では、このランクに入った作品についてはその順位も併記する。
さあ、2021年総まとめの開幕だ。
楽曲部門
シンビジウム / 富士葵
投票順位: 84位
最初に紹介するは、俺の 最推し 富士葵がおよそ1年半振りに放つ新曲「シンビジウム」だ。
バーチャル 芸人 シンガー・富士葵といえば、VTuber界トップクラスの歌唱技術を持つ実力派であるところはほぼ誰もが認めていただけると思う。しかし彼女にとっても2020年は受難の年であった。政府方針による活動制限、さらに所属事務所の変更もあり、おそらく思うように活動できない状態であったのだろう。オリジナル曲は2019年11月の「My Only Gradation」以来リリースできていなかった。
そんな中、2021年1月に開催にこぎつけた「VTuber Fes Japan」で披露されたのが、当時リリース直後であった「シンビジウム」である。
今までのメジャーリリース曲…「はじまりの音」「エールアンドエール」先述の「My Only Gradation」がいずれもアップテンポなポップスであったのに対し、「シンビジウム」はドラマチックなバラード、しかもマイナーコード中心の暗めの作風ではある。しかしこれが富士葵の本領を発揮させた。元々カバー曲ではバラードを得意としていた富士葵にとって、スローなテンポは歌声の力強さを活かせる舞台なのだ。そこに富士葵本人が書き下ろした、悲壮感を抱えつつもチャレンジ精神に満ちた歌詞。これは間違いなく、VTuber音楽の枠を飛び越え、音楽史に刻まれるべき傑作だ。
なお、富士葵にとって「シンビジウム」とい名前は、(1)2021年3月リリースのアルバムタイトル, (2)アルバムの表題曲のタイトル, (3)2021年6月18日に開催されたワンマンライブのタイトル、と3つの場面で使われている。アルバムとしての「シンビジウム」も歴史的名曲揃いの名盤なのであるが、これを語り出すとあまりにも長くなるので多くは語るまい。ただ、「2021年の富士葵」を代表する曲をひとつ選ぶとしたら、間違いなく「シンビジウム」である。
ILLUMINATE / ミライアカリ
投票順位: 圏外
「VTuber」いや「バーチャルYouTuber」という概念そのものがまだ新しかった2017年、率先して「バーチャルYouTuber」を広めてくれた功労者と呼べる存在の一角がミライアカリだ。その活動方針はデビューから4年経った2021年においても、時代に合わせてアップデートを重ねつつ確固たる芯を持った活動を継続している貴重な存在である。
そんなミライアカリの2021年は、音楽についても4曲に及ぶオリジナル曲を発表しており、間違いなく充実した実績を残してくれた。その中でも代表的な存在なのが「ILLUMINATE」だ。
冒頭は童謡「きらきら星」のフレーズの引用から始まり、親しみやすさを印象づけつつ間もなく独自の世界に誘う展開を取る。徹底してポジティブな歌詞をスマートなテンポに乗せる展開が感動を呼ぶ。勇気付けられたい時、新しいチャレンジをする時、我々はここに帰ってくればいい。「ILLUMINATE」は誰よりもチャレンジしてきた、ミライアカリの本心からのエールなんだから。
BRAVER / えのぐ
投票順位: 60位
「VTuber」とは何か。これだけ「VTuber」が広まった世界で、もうこれは一概に言えなくなった。ある人は「配信者」ある人は「ゲームプレイヤー」中には「日常の延長」であると言う。そんな中、最も「アイドル」を極めていると言えるのが、4人組ユニット「えのぐ」だ。
「えのぐ」の何が特徴か。まずは尋常でない舞台の回数であり、そして「VRアイドル」を自称しつつ「インターネット以外に活躍の場を見出す」ところだと俺は思っている。この「BRAVER」について特筆すべきは2021年の 高校野球都道府県別大会のテーマソング として採用され、実際に日本各地のテレビやラジオで放送されたという事実だ。このこと自体が既に、この曲がいかに重要な位置付けであるかを示している。
スポーツ大会のテーマソングには、それに相応しい世界観が求められる。そんな中「BRAVER」…「勇気ある者」は100%全力の「応援歌」に仕上がった。元々野球というスポーツはチームごとの実力差が出やすく、一方で運の要素も比較的多い。つまり「挑戦する者」こそが最も賞賛されるのだ。そんな選手たちに、VRアイドル「えのぐ」は自らの境遇を重ねこう歌った、「道なき道ゆけ、泥だらけだって」と。彼女たちが歌う「BRAVER」は、誰よりも強力な応援なのだ。
モストデンジャラスガールズ / ココツキ
投票順位: 圏外
バーチャルシンガーユニット「ココツキ」にとっても、2020年は受難の年であったことだろう。まず所属していた「upd8」が解散しフリーでの活動を余儀なくされ、さらに創業メンバーである鈴代つきねの脱退もあった。それを踏まえれば、2021年は間違いなく彼女たちにとって飛躍の年といえる。5曲のオリジナル曲の公開、アルバム「HIGH CONTEXT」発売、そして池袋Harevutaiでのワンマンライブ「CLOVERS」開催と、着実に素晴らしい実績を残してきた。
そんなココツキの2021年を代表する曲をひとつ選ぶとしたら「モストデンジャラスガールズ」になると筆者は判断した。元々どんなテンポでも歌い上げる技術の持ち主だが、特にアップテンポを得意としていたココツキにとってこの曲は見事なシンクロを見せた。珍しいほどの低音を生かしたメロディラインに加え「殺し合いの先の夢」「語る騙る鬼のごとし」など、音楽作品としては滅多に見られないバイオレンスな歌詞遣いも強い。
本人たちの技術に加え、ひときわ美しいビジュアルと秀逸な楽曲、さらに本人を主人公にした小説を含めて展開するココツキプロジェクトは、VTuber界の中でも異彩を放っている。これまでの経験を糧に、今後もさらに飛躍していくことだろう。来年からもココツキから目が離せない。
M.A.D.W. / 言霊少女プロジェクト
投票順位: 圏外
さて、これに関しては今回投票した中で唯一、アーティストが既に現役引退済である。「言霊少女プロジェクト」は当時6人が所属していたが、この作品を公開して間もなくプロジェクト終了が宣言され、現在では元メンバーの「川端ひまわり」「大江ふぶき」の2名のみがソロ活動を継続している以外は表舞台から姿を消した。
それでもなぜ、この曲に投票したか。それはひとえに、この作品の完成度の高さからであり、「俺が投票した」ことで誰かが「言霊少女プロジェクト」を思い出してくれたら、それはこの曲の存在価値が少しでも伸びてくれる、そういう想いだ。
実際、この曲の破壊力は本物だ。女性ボーカルのラップ自体珍しい存在であり、各メンバーの個性をビートに乗せつつしっかりしたメロディでまとめ上げた唯一無二の個性を持っている。本当に引退が惜しい、彼女たちの技術は本物だ。
MV部門
楽曲部門と重複する作品もあるが、遠慮なく載せる。ただ順位は「ファン投票_MV」シートに準拠する。コメントも映像に寄せていく。
シンビジウム / 富士葵
投票順位: 45位
これはひとつのドラマだ。圧倒的に広い舞台空間を生かし、砂浜での無意識な目覚めやビルからの飛び降りといった「死」を連想させる映像が繰り広げられる。壮大で意味深いオーケストラと合わせ、生命の意味を問うと言っても過言ではない。
富士葵を象徴するフレーズが「キミの心の応援団長」であるが、このMVはそのコンセプトの新たな一面を鮮やかに切り出した。人生とは、明るくてノリのいい応援歌が響く時ばかりではない。本当に迷い、苦しみ、落ち込んだ時、無理に鼓舞するのではなく静かに寄り添う、そしてゆっくりと谷底から引き上げる。そういった「応援」の形が、この「シンビジウム」なのだ。
ILLUMINATE / ミライアカリ
投票順位: 圏外
VTuberをあまり知らない人との会話でVTuberの話題になると、しばしば「なんでアバターなの?」と返されることがある。そんな人に対するベストアンサーがこの作品だろう。答えは「表現の幅が広がるから」だ。
まずアカリちゃんのダンスが魅力的。そしてファンタジックな背景と無数のアイテム、物理法則にとらわれず飛び回って跳ね回るダイナミックな映像表現。音楽の魅力を引き出す最強のアンサーだ。ベテランVTuberが放った映像の究極進化がここにある。
DAYZ / YuNi
投票順位: 圏外
この部門3作目にはYuNiを選ばせていただいた。ややメタい話になるが、音楽に合わせて3Dでゴリゴリ動くMVこそ「VTuberのMV大賞」として高評価したいのだ。
そんな中、YuNiはベテランの貫禄を見せた。実力派ボカロP・Gigaのサウンドに合わせたMVは、本人も背景すらも心から楽しんでいる印象を与える。耳になじむ歌声と合わせてひたすらハッピーな作品だ。公式で公開された 踊り手との実写コラボ もまた素晴らしい。ノリノリこそ正義。これからのアンセムだ。クラブで爆音が最高に似合う。
おわりに
「VTuber楽曲大賞」が始まったのは2019年だ。2年前と比べて何が変わったって、シンプルに作品が増えた。そもそもVTuberの数も増えた。今年の本イベントではTOP30がまず公表されたが、もう30曲では「満足できない」というのが我々オタクの本音だろう。この点からも、もし来年も同じ企画をするなら、何かしらシステムの改善が欲しいところだ。
実際の投票ランキングを改めて見返して思う、 男性VTuberの作品が多い。 ということは意外と投票者の男女差があったりするのかな、とも思う。もしかすると年齢差や流入経路など、色んな分類ができるかもしれない。そのあたり見られたらもっと面白いかもしれない。
本当に最後に… 現地でTOP30のランキングを見た時は正直「これなら投票しても意味ないわ」と思った。だがこうして文章を書くフックをくれたこと、何より「あなたの楽曲大賞」というコンセプトをくれたことが、企画の一番の意義だと今は思える。2022年も全力でVTuber音楽を楽しんでいきたい。