職業選択の自由

職業を選択するまでの過程。

実録・不動産訪問営業 PART2

PART1はこちら

この世には、人間の姿をした「悪魔」が存在する。

その悪魔は、巧みに人間の思考を操作し、判断力を奪い、いざとなったら凶悪に豹変し、人間、いや「獲物」から何もかもを奪って生き永らえる。これは悪魔の餌食になりかけた人間の、反省と教訓の話。

今日は「悪魔」との決別と、徹底防戦に至るまで。

無知

  • 宅地建物取引業法
  • 宅地建物取引業法施行規則
    • 第16条の12
      • ロ: 正当な理由なく、当該契約を締結するかどうかを判断するために 必要な時間を与えることを拒むこと。
  • 刑法 第130条
    • 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらず これらの場所から退去しなかった者 は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

日曜日の夜、弁護士ドットコムに相談を投稿し、消費者センターや法律相談の連絡先を調べておく(この時点ではさすがにどこも営業時間外であった)。翌朝の予定は決まったものの、落ち着いて寝られる状態ではない。ビールをあおりつつ調べたのが、上記の不動産業務や訪問営業に関する法である。あの野郎、 全部アウトじゃねーか。 「法律は弱者の味方ではなく、知る者の味方である」とどこかで聞いたが、こんな形で思い知ることになるとは。ともかく連中とは絶対に関わってはいけないと、改めて決断するのであった。

味方

3/8 月曜日、まず一番早くに始まった 警察相談ダイヤル#9110 に電話。ここは110番通報するほどではない相談を幅広く受けてもらえるサービスである。内容としては警察のサービスだけあって「詐欺かどうか」を主に聞き取られた。結論としては「可能性は高い」とのことで、次に「法テラス」「千葉県消費者センター」への相談を勧められ、それらの電話番号を伝えられた。

続いて 法テラス に相談。しかし具体的に金銭を取られてもいなく、契約もしたわけではないので、ここへの相談は今回適していなかった。

次に 消費者センターホットライン(188) に電話、ここ経由で地元の消費者センターに繋ぐ。ここの相談員の方が鋭かった。

「まず、その訪問に来た業者の 免許番号 って分かりますか?」

これは把握していた。 国土交通省のWebサービス が存在すること、ここにKBプランニングの情報も載っていることは、前夜のうちに把握していた。曲がりなりにも免許証は本物だったようだ。

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(パブリックな情報なので別に塗りつぶすこともないと思うが、万が一見つかって逆恨みされたら怖いので)

「免許証番号」「免許の有効期間」「主たる事業所の所在地」を伝えたところ、相談員の方は以下の通り教えてくれた。

  • 「免許証番号」の先頭のカッコ内の数字は 免許の更新回数 を表す。「(01)」ということは これが初回の免許取得である。
  • 免許の有効期限が令和2年9月からということは、上記の件と合わせ 事業を開始したのがこの時 という可能性が高い。
  • また所在地の末尾の数字「401」はおそらく部屋番号であり、アパートの一室の小規模なオフィスではないか。
  • 以上のことから、KBプランニングが 信用に足る業者だとは考えづらい。 この商談は断るべき。

なんだよ、 あんだけ持ち家持ち家言っといてテメェは賃貸かよ…! 勧誘の時に言っていた「今までの顧客はみんな満足している」「長い付き合いになる」などなどの宣伝文句は、免許取得からの日の浅さのため全て限りなく胡散臭くなった。

そうなると、営業担当Bの初回訪問時の怪しい行動も合点がいく。宅建免許証を直接見せることを頑なに嫌がったのだ。

B「免許証を見せないといけなくて…あれ、車に忘れてきちゃいました」
俺「車までついて行きましょうか?」
B「いや大丈夫です、インターホン越しに見せるんで」
俺「いや、こういうのは直接確認した方がいいでしょう。行きますよ」
B「いやいや、お客様に迷惑かけるわけにいかないんで」
俺「大丈夫っすよ足腰丈夫なんで」
B「…あの、恥ずかしいんで今まで黙ってたんですけど、僕 円形脱毛症なんです。 だから見られたくなくて」
俺「はあ…そういうもんっすか…?」

結局この時は折れてしまい(身体的特徴を持ち出されて押し切るほどの強引さは無かった)、インターホン越しの確認のみで済ませてしまった。今なら、これは免許証をはっきり見せないことで、万に一でも自らの日の浅さを感づかれないための行動だと透けて見える。つくづく嘘で塗り固められた存在だ。

さて、その後俺が取るべき行動はただ一つ。宅建業法では、相手方(消費者)が契約を締結しない旨の意思を示した場合、 継続して勧誘を続けることを禁止している (宅地建物取引業法施行規則 第16条の12)。つまり相手に電話し、契約しない趣旨を伝え、あとはその番号は着信拒否。もしその後向こうから何らかの接触があっても全て拒否。これでこの件は解決するし、俺も高額のローンを組まなくていい。

相談員「あと、 通話は全部録音すること。 相手も色々言ってくると思いますけど、絶対に "契約しません" とだけ答えてくださいね。他のこと言うとまた言いくるめられるかもしれないので。頑張ってください…!」

混乱と恐怖に蝕まれていたこの時の状況の中で、相談員のアドバイスは非常に心強かった。味方はいる。武器は持った。決戦の時だ。

決戦

まず相談員のアドバイスに従い、KBプランニングの代表電話にかける。だが繋がらない。

やはり営業の連中に言うしかないか…とはいえ、前回恫喝してきたKとはあまり接触したくない。ボイスメモアプリを起動、まず比較的人当たりのいいBから電話をかける。

俺「御社との取引を、全て停止します」
B「あのー、やはり内容が内容なんで、僕じゃなくて担当のKに言ってくださいね」
俺「あと代表電話にかけたんですけど、誰も出なくて。いつなら居ますか?」
B「確かに今(午前10時前後)みんな外に出てますけど、朽木さん(俺)代表電話かけようとしてるんですか?何考えてんですか、普通マナー違反ですよそんなの。迷惑なんで絶対やらないでくださいね」

取引停止を持ち出されて、明らかに態度が強行的に変わった。客を恫喝するような会社がマナーを語るとは恐れ入る。

とはいえKとの交渉は避けられないか。電話をかけるが出ない。代表電話ももう一度かけてみたが繋がらない。Kから折り返しが来るか、Bの言っていた12時半が来るまでは、とりあえずできることはなさそうだ。一旦仕事に戻ることにした(つくづくリモートワークでよかった)。

12時半、試しに代表電話をかけてみる。繋がった!…が、KでもBでもない人物が応答した。この場ではXとしておく。

俺「御社との取引を、全て停止します」
X「あの、個別の案件について全て把握しているわけではないんで。お名前なんて言いました?」
俺「朽木です」
X「あー…船橋の住宅ですね。担当がKなので、そちらに連絡してもらえますか」
俺「はぁ、分かりました…」

なんだか会社全体としてKに誘導しているような気もするが、俺の知るよしはない。戦々恐々としていたら、Kから折り返しだ。先程の代表電話から約1時間、13時半ごろのことである。急いでボイスメモを立ち上げ、通話に応答する。

K「着信あったんですけど、どうしましたか?」
俺「あの…御社との取引を、全て停止します」

プロの不動産営業相手にまともな会話は通じない。 "会話" に持ち込まれたが最後、テクニックは桁違いだ。我々一般人ができることは、ロボットのごとく一定のフレーズを繰り返すだけ。

K「はぁ(笑)? …まず確認しますけど、録音とかしてないですよね」
俺「はい… (してるけどな)」

なるほど、録音されると余程都合が悪いのか。消費者センターのアドバイスと食い違いすぎててウケる。

K「録音とか、マナー違反ですからね。ネットに流される可能性とかもあるんで」
俺「はい… (録音するけどな)」
K「じゃあ、ここからの話は、録音されていないということで進めますよ。本当にいいですね」
俺「はい… (さっさとしろよ)」

客を恫喝するような会社がマナーを語るとは恐れ入る。ついさっきも書いたなコレ。それにしてもツメが甘い。こっちが録音しているかそうでないか、向こうは確認するすべはないのだ。

K「まず、何なんですかアナタ? 家買うっつといて、昨日の今日でやっぱり買いませんって。色んな人に迷惑かけてるって自覚してるんですか?」
俺「はい…」
K「昨日書類にサインしましたよね。あれで僕たちだけじゃなく銀行も動いてるんですよ。あなたが家買いたいって言うから、でも頭金ないっていう難しい条件だから頑張って。全部無駄にするんですか?」
俺「はい… (家買うってはっきりとは言ってないだろうがよ)」
K「銀行に迷惑かけたら僕たちの会社との関係も悪くなるんですよ。これでもし会社に損害があったらアナタのせいですよ。責任取れるんですか?」

怖っわ。会社の損害とまで言われると折れちゃう人も多いんだろうな。しかし俺はこんな責任なんて関係ないことを知っている。潰れるなら潰れてしまえ。

俺「どこの銀行ですか? 日本モーゲージ…?」
K「言うなよ! 何してんですか! 銀行に直接ってダメですからね!」

おっと、どうやら核心だったようだ。この電話が終わったら絶対言おう。

K「第一、昨日サインしたじゃないですか。何だったんですか?」
俺「あの…自分の意思ではないので」

正直、ここに関しては、今冷静に考えると失敗した。取引停止の意思を伝えたらさっさと電話を切ればよかったのだ。しかし、恐怖に支配された人間にまともな判断を求める方が酷である。

K「はぁ? 自分の意思じゃないのにサインしたぁ? 嫌がらせですか?」
俺「はい… (サインするまで帰らなかったお前らが悪いだろうがよ)」
K「またなんでこんな怒られるんだって思ってます? もうアンタ客じゃないんで。アンタに家売りたいなんて人いないですよ。一生困ればいい」
俺「はい… (お前が悪いだけだろうが)」
K「あんた嫌がらせしたんですね。同じことしますよ」
俺「はい… (何とでも言え)」
K「勤務先にも言いますよ。いいんですね」
俺「やれるもんならやってみろよ (はい…)」
K「ほぉん。いいんですね。分かりました。じゃあ」

ともかく、これで電話は切れた。人生で一番ストレスフルな10分間だった。…もっと早く切ってもよかったな… とりあえず、ここから業者関係の電話番号は着拒。なんか向こうの業者からの着信があったっぽいが全部無視。一旦千葉県消費者センターの相談員の方に繋ぐ。特定の相談員への通話が許可されたあたり、大変に消費者に寄り添った運営をしてくれているようだ。「お疲れ様でした」といたわってくれた。

それにしても、改めて不動産業者のえげつなさを知ることとなった。契約書の意味をぼやかしてとにかくサインさせる、以前の説明と違うことを平気でする、場合によっては暴力的交渉もいとわない。気の弱い人なら折れちゃってただろうな、ということも邪推する。

防戦

以上が昼過ぎまでの出来事である。しかし、業者からの電話は絶ったとはいえ、安心はできない。こちらは相手の口車に乗せられ、住所まで教えてしまっている。アパートのドアを出た瞬間捕まる可能性も否定できない。どうにも落ち着かなくて対策をネットで調べていたところ「交番に相談した」という書き込みが出てきた。

これか…! そうだよ、身の危険を覚えているなら、警察の出番だ。会社の定時を迎え、日が落ち暗くなった頃。住んでいる3階から出入り口付近を見回す。とりあえず誰もいない。それを確認して、最寄りの交番に向けて出発する。住んでいるアパートの1階に出向き、慎重にドアを開ける…

…誰もいなかった。

外に出るのに用心しなきゃいけない。つくづくとんでもない連中と関わってしまったものだ。そのまま最寄りの交番へと足を進める。こういう時、日本の治安制度に感謝する。

交番では、今までの経緯を細かく聞かれた。そして業者とのやりとりの録音も提示した。本当に録音しておいてよかった。ちなみに冒頭の「録音とかマナー違反ですよ」という業者の主張は、聞かせた上でお咎めなしだ。やっぱり連中は適当な事しか言わねえ。経緯が長いだけにそれなりの時間はかかったが、全てを説明し終えた上で「相談事項として記録しておく」との返答をいただいた。そして「もし接触するようなことがあったら、遠慮なく通報してください」とも。確かに、警察への通報って心理的ハードル高いもんな… しかし今はそんなこと言っている場合ではない。警察の協力を得た、このことは非常に心強い。

しかし失敗も露呈した。まず何よりも個人情報を渡したこと、そして 記入した書類の写しを保管していなかった ことだ。これは本当に後悔している。そもそも数千万単位の金が動く契約で、当事者がどんな書類にサインしたか把握していないなど大問題だ。用紙は複写式などではなかったが、そうであっても「写真に撮ること」と警察の方に忠告された。今後、肝に銘じておきたい。

警察への相談を終え、安心と不安が入り混じる中の帰宅。とりあえず眠りにつく…なんてできるわけもなく、酒で気分をごまかす。強烈なストレスは人をアルコールに走らせる。早く終わってくれないと色んな意味で俺の体がやばい。

最後の一手

翌日。万が一にでもローンの手続きを進ませないために、業者が利用した金融機関に連絡しなければならない。一連の件で書かされた書類は2組、片方は記憶が鮮明だったので覚えている。「日本モーゲージサービス」という会社だ。しかしもう一方、2/20に記入した方はどこの会社の用紙だったか思い出せない。そもそも日本モーゲージサービスの方も、会社名こそ覚えていたものの何の用紙だったかまでは分からない。4枚組だったのは覚えているんだが…つくづくコピーを保存していなかった過去の自分を呪う。

どうしたものかしばらく考えていたところ、2/20の交渉で業者が言っていたあるフレーズを思い出した。

K「別に特別な用紙じゃないですよ。不動産屋に行けばどこでもあるんで」

そういえば、こういうデータって割とネットに公開されているケース多いよな…? 記憶を頼りに「フラット35 事前審査申込書」などで検索してみる。…おいおい、あるじゃねえか!見覚えのある様式が!間違いない!

2/20に書いた方は、記憶が曖昧だったのでしばらく迷ったが、最終的にクレディセゾン株式会社の「 フラット35(買取型)・(保証型)/フラット35PLUS 事前審査申込書 兼 今回の住宅取得以外の借入に関する申出書 (既融資完済に関する念書) 」であると断定、もう片方も 日本モーゲージサービス株式会社 の「 長期固定金利住宅ローン (機構買取型/保証型) 事前審査申込書 」および「個人情報の取扱に関する同意書」「今回の住宅取得以外の借入に関する申出書」であるとはっきりした。あの野郎、 ネットでフリーで手に入る書類をさも重要かのように見せたんか!

また一つ業者へのヘイトが増えたところで、そもそも住宅ローンの事前審査というものは中断していいものか調べる。これに関しては審査を中断しても、例えば信用情報に傷がつくなどの影響はなく、特に問題ないようだ(この前の「銀行に迷惑かける」って主張はどこ行った?)。そもそも借入金額を記入する欄があったが、物件が決まっていないどころか存在もしていない状態で金額が決まるわけもなく、本当に銀行に出したのか? という部分から疑問が生じる。いや、取引をやめようとしているんだから、これはむしろ安心材料だ。

ということで、クレディセゾンと日本モーゲージサービスの各社には、状況と身分を明かした上で「今後ローン事前審査申込書が届いても審査を進めないように、もし申込書が届いていたら契約の意思はないので中断を」という趣旨で連絡を取った。クレディセゾンの方は電話応答だったので、そもそも申込書が届いていないことをすぐに確認 (やっぱり嘘じゃねえか!) 、審査を進めないことについても了解してもらえた。日本モーゲージサービスの方は、メールフォームを利用した問い合わせだったので翌日まで返答を待つ必要があったものの、同じく申し出を理解していただいた。不動産業者の暗黒っぷりと異なり、金融機関の皆さんは顧客に寄り添った対応をしていただいて助かった。

これでひとまず安心して過ごせる日々を取り戻した。渡してしまった個人情報は消せないが、事件から2ヶ月ほど経った今のところも、怪しい訪問もポスティングもなく平穏に過ごせている。もちろん自分の勤め先にも何も無し。もし何かあったとしても警察が味方だ。業者としても、警察のお世話になるリスクを犯して過去の失敗を掘り起こすよりは、次のカモを見つけた方が有利なのであろう。今後も平穏に過ごせることを祈る。

とはいえ、課題も数多く見つかった。ある意味で非常に勉強させてもらった事件であった。これに関してはPART3で語ろうと思う。この記事はここで締めておく。お疲れ様でした、俺。