実録・悪徳不動産業者 PART1「遭遇」
この世には、人間の姿をした「悪魔」が存在する。
その悪魔は、巧みに人間の思考を操作し、判断力を奪い、いざとなったら凶悪に豹変し、人間、いや「獲物」から何もかもを奪って生き永らえる。 これは悪魔の餌食になりかけた人間の、反省と教訓の話。
今日は「悪魔」との遭遇と、「悪魔」の存在に気付くまでについて。
2/7 11:00
「すみませーん。 先日ポスティングさせていただいた書類に返信が無かったので、直接お伺いしたんですけど。 上げてもらっていいですかー?」
…さて、そんな書類あったかな。インターホンの向こうには謎の男。ポスティングを全て記憶しているわけではないが、マンションのチラシ・デリバリーのチラシ・家賃・水道・ガス、あと地元のフリーペーパー以外のポスティングがあれば気付きそうなもんだが。とはいえ本当は必須の書類を間違って捨ててしまっていたらそれはそれで困る。
筆者は千葉県の賃貸住まいだ。もし管理会社とトラブルになったらまずい…とりあえず玄関先まで上げて話を聞くことにした。
俺「…なんですか」
??「いや、チェーン対応って初めてなんですけど。そんなに怪しいですか?」
俺「何の要件ですかって聞いているんです」
??「私、 住まいについて考える時間を作る 活動をしていまして。…いや本当、チェーン越しだと話しづらいんで」
俺「…いきなり変なもの売りつけられるとかじゃないですよね」
??「めっちゃ疑うじゃないですか。本当そんなんじゃないんで。ていうか朽木さん(※)やっと会えたんですよ、 今まで何回も来てるんですけどいつも留守で …忙しいんですか?」
※筆者の名前…だが本当はこんなかっこいい名前ではない。しかしいつも名乗っている「ねこばば」だと緊張感が出ないのでこのシリーズではこう名乗る。
俺「まあ、週末は家空けてること多いですが」(※これは日曜日)
??「本当、今日会えてラッキーですよ!全然、話させていただくだけなんで、とりあえずチェーン外していただけませんか?」
とりあえず金銭のやりとりは無さそう。ていうかこのままだと帰ってもらえそうにない。うるさいので言う事を聞くことにした。
??「いやあ、本当今日はありがとうございます!あの、やっぱり初対面なんで、 自分の話させてもらっていいですか? 」
俺「…はあ。(さっさとしろよ…)」
男の名は B という。ここから30分ぐらい、自分がいかにモテるかとか、でも自分は既婚子持ちなんで周りでカップル成立したとか、そんな話を聞かされた。
B「いやでも、朽木さんめっちゃ話しやすいですね!今日は本当朽木さんに会えてよかったです!もう 警戒心とか無いですよね? 」
俺「…はあ、まあ」
B「じゃあ、警戒心も解けたということで、これから本題に入らさせてもらいますね。ちょっとその前に上司に電話していいですか?」
俺「早くしてくださいね」
…なんだこいつは。住まいがどうとかの話はどこいった。
B「(電話口)…はい、そうですね、警戒心も解けたということで…はい、了解です」
俺「…なんだったんですか、ていうか住まいが何とかって」
B「そうなんですよ、僕、 "KBプランニング" (※) のBと申します。はい、朽木さんにはぜひ 住まいについて考えていただきたくて 」
※実際に筆者の元に来た業者とはかなり遠い名前にしてある。業者の人物のイニシャルも然り。
俺「…手短にお願いしますね」
Bの説明に入る。ご丁寧にフリップにメモ用紙まで用意して説明されたのはこんな内容だった。
- 今は賃貸ということだが、家賃をこのまま定年まで30年払い続けるとこんな金額になる (筆者は現在31歳)
- 物件には大きく分けて賃貸と持ち家の2種類しかない。持ち家という選択肢を知らないでこのまま過ごすのはもったいない
- 持ち家のリスクは色々考えつくと思うが、全て回避できる
B「どうですか、持ち家、興味ありませんか!?」
この時点で既に最初のインターホンから2時間以上経っている。正直もう面倒くさい。
俺「…いや、正直もう面倒くさいんですけど」
B「面倒ならなおさら僕たちに任せてください!プロなんで!不動産業って免許がいるんですけど、その免許もちゃんと… あれ、車に忘れてきちゃいました 」
俺「しっかりしてくださいよ」
Bによると、次もう1回訪問させてくれればそれ以上面倒なことはないという。面倒なんで日程調整してそのまま了解してしまった。
俺「次で最後なんですね」
B「はい!ちゃんと朽木さんの人生変えてみせますんで!」
俺「大きく出ましたね」
B「いや、大げさじゃないですよ。本当です」
(一通り終わった今振り返ってみると、本当にある意味人生変わったんだが、この時は知る由もない)
ようやく帰ってもらえた。日曜日の昼下がり、3時間の拘束、しかも自分の 住所、電話番号、勤務先、年収まで教えてしまった。 (完全に迂闊だ) …正直いい気持ちはしない。この日はサウナに行って気晴らしした。
2/7 20:00
やっぱり怪しいよな、と思い直す。そもそも近年、自然災害なんかで二重ローンを抱えたっていう話もよく聞くじゃないか。世の中そううまくは行かない。幸いにも電話が繋がった。
俺「やっぱりそんな何もかも上手くいくとは思えなくて」
B「そうですか…じゃあ、先ほど書いてもらった書類は個人情報なんで返す必要があって…また返すためにお伺いしてよろしいですか?」
俺「ぜひお願いします」
B「では、上司の K が向かいます」
これで終わりだ。持ち家なんて高い買い物、慎重に考えなきゃ。
2/20 18:00
K「朽木さんですよね、約束いただいたKです」
俺「はい、お待ちしておりました」
玄関先まで迎え入れる…正直、この時点で迎え入れるべきではなかった。
K「ちなみになんですけど、何で取り消そうと?」
俺「まあ、…」自分なりに理由を話す。
K「そういう理由ですか…いやでも、朽木さんは家を持った方がいいと思うんです」
俺「いや、まだそれができるか分からないですし…それにリスクも」
K「大丈夫ですって、任せてくださいよ!それに 僕は不安なんです 、朽木さんがこのまま賃貸に住み続けて、老後お金がないとか、どこにも住めないとかってなるのが」
俺「まあ…分からないじゃないですか」
K「だから、説明させてくださいよ!絶対損はしないんで!」
俺「えぇ…?」
K「あの、今実は 家族を待たせてまして。 どうですか、話だけでも聞いてもらえませんか?」
俺「まあ、話聞くだけなら…」
K「じゃあセッティングしますね!」
結局、まだ話は続くことになった。
2/27 12:00
K「結論から言うと、朽木さんは持ち家を持った方がいいです」
1Kの自宅のメインルーム、机には自分とK、背後にはB。ここから長々と色々な説明を受けた…が、今考えると何一つ参考にならなかったので詳細は省く。とりあえず2時間ほどかかった…またも疲労困憊だ。
K「じゃあ、持ち家ってことでいいんですね?」
俺「いや、話は分かったんですけど、本当にそんなローン組めるんですか?3000万円って…」
K「それはまだ分からないですよ。だから審査するんです。大丈夫、ダメだったらダメでその時なんで。とりあえず審査だけでも受けましょうよ」
俺「…めっちゃ個人情報じゃないですか。大丈夫なんですか」
K「そこは信じてくださいよ。個人情報適当に扱うようならそもそも僕たち仕事できてないんで」
俺「…これ書けば終わるんですね」
K「大丈夫ですって… すみませんが 僕たち次があるんで、早くしていただけると 」
俺「分かりましたよ…書いたら帰ってくださいね」
K「あと審査なんで、 免許証のコピーと源泉徴収票のコピーも必要でして 」
俺「大丈夫ですか本当に」
K「大丈夫ですって、こんなの 僕たちが持ってても何もできないですから 」
もう完全に相手のペースである。本当に迂闊だった。結局近所のコンビニでコピーを取り、言われるがまま相手に渡した。
2/27 20:00
この日は実家に帰ることにした。不動産関係の経験はもちろん豊富だ。
俺「例の業者、まだ話続いてて…」(※最初の訪問のあと、LINEで連絡していた)
母「へえ、どんな家?やっぱ単身ならマンション?」(※筆者は未婚)
俺「いや、これから土地手配してそこに建てるって」
父「え、新築一戸建て?…要るか?」
母「持ち家は持ち家でそんなうまく行かないよ」
俺「…だよなあ、やっぱ慎重になるわ」
この両親の助言が後々効いてくる。持つべきは相談できる両親だ。
3/7 18:00
B「朽木さんですかー?いい土地見つかったんで紹介したいと思いましてー」
Bから電話だ。とはいえもう持ち家の意識は離れていた。この機会に断ろう。
俺「ちょっと…考え直したいと思いまして」
B「そうですかー、では担当のKが向かいますんで、その場で話していただけると」
日曜日だっていうのに自宅から出られないで待つ。いや、俺は今日関係を切るんだ。はっきり伝えよう。
K「で、話があるって聞いてますが」
俺「実は、両親とも話しまして。やっぱり両親の生活を放っておいて、自分だけ家を買うっていうのはできないです」
K「…で?」
俺「…あの、持ち家、しばらく保留します」
K「いや何言ってんですか。家買うって言ったじゃないですか。そんなコロコロ言うこと変える人だったんですか?」
俺「なん…」
K「もう銀行も、建築業者も動いてるんですよ。朽木さんのために。今更やめるんですか?朽木さんのために、頑張ってくれた人たちの努力、時間、無駄にするんですか?」
俺「いや、いつから…」
K「先週書類書きましたよね。あれで動いてるんですよ。僕たちも銀行に頭下げて。頭金無しっていう難しい条件で。朽木さんのために土地も探して。今こうやって書類まで持ってきて。全部無駄にするつもりですか?」
俺「いや、そんな」
K「 迷惑なんですよそういう態度! 両親がどうとか訳分からない理由で勝手にやめられて!これから辞めるってなったら僕たちが取引してる銀行にも迷惑かかるんですよ、分かりますよね?」
俺「…」
K「銀行と関係が悪くなったら 僕たちの会社の損害ですからね?責任取れるんですか? 」
なんだこれは。なんで日曜日にこんな思いをせねばならんのだ。なんなんだこいつらは。
俺「なんで…ここまで怒られなきゃいけないんですか」
K「あのね…朽木さん、あなたの人生ですからね。怒ってくれる人が他にいないからですよ。あなたはもっと真面目に向き合った方がいい」
さすがに態度が軟化した。とにかく穏便に帰ってもらおう。
俺「正直、もうちょっとこの家に住んでいたいっていう気持ちもあって…家建てても住めるんですね」
K「僕としてはそんなにこの家がいい理由が分かりませんが…大丈夫ですよ最初のうちはローン分の保証もあるんで」
俺「分かりましたよ…今日はどうするんですか」
K「書類持ってきたんで。家買う手続き進めましょうよ」
俺「また個人情報…」
K「すみません、 次の予定もあるんで急いでもらっていいですか。 さあ」
俺「ちゃんとしてくださいね…」
K「ほら、早く」
…思い出すのも嫌な1時間だ。俺はこの瞬間、こいつらとは取引してはならないと直感した。
K「いや、今日はすみませんでした。大丈夫、朽木さんの悪いようにはしないんで。ほら。」
握手の構えを出してきた… こんなの DV加害者と同じ構造じゃないか。 とはいえとりあえず帰ってもらった。昼からビール飲むつもりだったのが台無しだ…せめてサウナでも行こう。
3/7 19:00
まだ悩んでいた。俺はこのまま家を買うしかないのか…
今の家は確かに家賃もかかるし、同じ月々の支払いでもっといい家に住めるのも事実かもしれない。しかし都心へのアクセスはまあまあ良いし、駅前はかなり栄えていて不便はない。それに比べて業者が提案してきた土地、今の家より東京から遠い 津田沼からさらに新京成とかいうローカル線で15分の「滝不動」駅、しかも多分そこから歩いて10〜20分 とかいう船橋の田舎のとんでもない土地だった(どうせ住まないので詳細に書いた)。こんなド田舎に住むぐらいなら賃貸の方がいい。
とりあえず今のKの態度を注意してもらいたいので、最初に接触してきたBに電話する、が繋がらない。さてどうしたものか…と考えていたところ、昔登録していたあるサイトのことを思い出した。 弁護士ドットコム だ。回し者みたいな書き方になってしまったが、これは完全に善意の記述だ。
さて、弁護士ドットコムで似たような事例を探す。「不動産 訪問営業」「マンション 営業」…出るわ出るわ、そっくりな被害相談。ついでにGoogleでも探す、まあもっと出るわ、手口がそっくりの体験談。 「書類に返事がなかったので」「不動産について考える時間」 …これらが連中の常套句であることもこの時知った。しかも「ファミレスに呼び出されて長時間の拘束」「実際に手付金を払ってしまった」「思うように家賃収入が得られず自己破産」…自分より酷いケースもいくらでも出てくる。確信した、 こいつらは悪魔だ。
筆者は、実は5年ほど前にマルチ商法に引っ掛かりかけたことがあり、それ以来弁護士ドットコムの有料会員である。とは言っても月額300円+消費税なので大して負担にも思っていなかったが、この際なんで初めて有効活用させていただくことにした。上記のことを書き、「手続きを取り消した方がいいか」との相談を投稿。このサイトはよっぽど意味不明な投稿でない限り、ほぼ全ての投稿に弁護士からの回答がつくことは今までの経験上把握している。相談を投げる、それに回答が期待できる、これだけで随分気が楽になるものだ。大丈夫、俺は悪魔と戦える。
3/7 21:00
今更ながら、Bから折り返し。日曜日の遅い時間にご苦労なこった。
俺「Kさんとのやりとり、注意していただけませんかね」
B「分かりました…そういうことがあったというのは上に報告しておきますが、Kも朽木さんのことを本気で考えているので、ちょっと厳しくなってしまったというのはご理解いただけると」
全くもって白々しい。
俺「頼みますよ、本当」
B「はい…今後ともよろしくお願いします」
今後なんて無い。俺は全力で悪魔と戦う。やられたらやり返す。